『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』を読了しました。
以前スマホの紹介記事を読んで、面白そうだと思っていました。
面白そうというより、密室トリックが6つもあるのはお買い得感があったからです(笑)
すぐ本屋に行ったのですが、見つかりませんでした。
その時は、これも前から読みたいと思っていた『硝子の塔の殺人』を買いました。
これはこれで面白かったですけど。
『硝子の塔の殺人』評価考察 続編・映画化はあるのか?ネタバレはなるべくなしで
『密室黄金時代』は、文庫しかないことを知らなかったので見つけられなかったのです。
本作も『硝子の塔』と同じ「密室殺人」「クローズドサークル」という設定です。
狙っているわけではないのですが、こればっかり読んでいるような気がします。
綾辻行人の『十角館』『奇面館』を入れると、これで4作目になるのかな。
本作『密室黄金時代の殺人』もネタバレはなるべくなしで、読んでみたいと思われるような紹介をするつもりです。
『密室黄金時代の殺人』あらすじ
紹介文を引用します。
「密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある」
との判例により、現場が密室である限りは無罪であることが担保された日本では、密室殺人事件が激増していた。
そんななか著名なミステリー作家が遺したホテル「雪白館」で、密室殺人が起きた。館に通じる唯一の橋が落とされ、孤立した状況で凶行が繰り返される。
現場はいずれも密室、死体の傍らには奇妙なトランプが残されていて――。
「(小説の)殺人現場が密室ということに特段の意味を見いだせなかった」というようなくだりが作中にありました。
考えてみれば、犯人としては捕まらなければどっちでもよいことではあります。
しかし本作では「現場が密室であれば(状況証拠は考慮されることなく)無罪とされる」という設定になっています。
意外と荒唐無稽でもないのかもしれません。
リアルの世界では物証がなくても状況証拠だけで死刑判決が出されることもあったはずですが、現場が密室だったらホントにどうなるのでしょうね。
登場人物は12人です。
こう書くと多いようですが、何人も殺されていき、容疑者もある程度必要なことを考えると、ギリギリまで絞ったという感じがします。
『密室黄金時代の殺人』評価・感想
構成は全6章、あとプロローグ・エピローグがあります。
そして各章末に、主人公とヒロインの過去の回想が少し付きます。
別の分け方をすれば、4章までが第1部、5・6章が第2部、そしてエピローグが第3部となるでしょう。
さて感想ですが、とてもテンポがよく読みやすいです。
ストーリーに「谷」が無く、どんどん事件が起きるので退屈する間がありません。
なにしろ、6つも事件を入れないといけないのですから。
そしてキャラクターが漫画的といいますか、陰惨さが全く感じられません。
序盤でみんながそろっていた頃は、そのやり取りに笑みが溢れるほどでした。
密室トリックは、いずれも物理トリックと呼ばれるものです。
好き嫌いが分かれそうではあります。実際に本当に出来るのかとも思ったり。
ここまでやるのは「いじましい」とも思えますが、「密室なら無罪」という設定があるということで納得することにしました。
ただ「2部」「3部」のトリックは、シンプルでケレン味のないもので、素直に「なるほど、なるほど」と思えました。
文体が独特で、作者名を伏せても誰が書いたか分かるほどです。
写実的とでもいいましょうか、「僕はとても悲しかった」というように、そのまま描写します。
また、今風の言葉も多用しています。
小説は地の文章の視点(1人称か3人称か)を統一させる、という基本があると思うのですが、本作では主人公であったり犯人であったりと一貫していません。
しかし読みにくいということは全くありませんでした。
あくまで基本であり、それにとらわれず、また読みやすく描くというのは、作家の技量というものなのでしょう。
ラストが妙にさわやかでした。
ここまで気持ちのよい描写の作品は、小説に限らず過去にちょっと心当たりがありません。
『硝子の塔』は映画化向きでしたが、本作『密室黄金時代』は漫画化向きだと感じました。
漫画といっても『十角館』のようなリアル系の絵ではなく、
もっとデフォルメされた絵柄が似合います。
序盤の物理トリックの解説は、漫画で絵解きをした方がずっと読みやすくなると思うのです。
キャラクターたちのボケ・ツッコミの描写も、漫画そのものでしたし。
大賞受賞作『元彼の遺言状』はテレビドラマ化されていますが、本作もメディア展開が期待されます。
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