『硝子の塔の殺人』を先日読了しました。
館シリーズ最終作の待機期間が長くなりそうなので、色々な作家・作品を調べていたところです。
本作は館シリーズの綾辻行人だけでなく「新本格」の大御所たちがこぞって絶賛していたので、気にはなっていました。
面白かったです!
知念実希人という作家は今回初めて知ったのですが、結構実績のあるベテランだったようです。
本作はミステリーへの思い入れを余さず詰め込んだような感じがしたので、デビュー作かとも思っていました。
しかしこれは満を持しての投入ということだったのですね。
『硝子の塔の殺人』評価
令和4年4月18日現在、アマゾンのカスタマーレビューでは 557件の評価で 星5つ中の4.2 となっています。
星5つが58%、また上位レビューでは賛否両論という感じでした。
おおむね好評ですが、突き抜けて万人から満足されるということでもなさそうです。
館シリーズの評価を見た時にも思ったのですが、マニアほど辛口の評価になりがちなのではないでしょうか。
色々な作品に触れている分、今までにない刺激でなければ満足できなくなっているのです。
きちんと筋道を立てて考えれば犯人を当てることができるというのが、このジャンルの建前ではあります。そして作法通り、作中にはヒントが散りばめられています。
ただいくらマニアとはいえ、本作の構造を途中で予想できるとはとても思えません。
予想はできないが、結果に期待外れだったということでしょうか。
オビの島田荘司の宣伝コピーには「このジャンルで今後これ以上の作品が現れることはないだろう」とありました。
少なくともトリックの作り込みは、これ以上やったら理解が追い付かなくなるだろうというレベルのものではあったと思います。
私の評価としても、まさに4.2点という感じです。
不満らしい不満といえば、もう少しさわやかな読み味であればよかったという感じでしょうか。
コッテリすぎます。娯楽作品でなぜここまでやるのか、と思わないでもありませんでした。
しかし、これを楽しむのがミステリーの醍醐味ともいえます。(館シリーズ同様)現実には絶対起こりえないことだが、予想できないトリックを楽しむべきなのです。
というわけで私の減点は好みの部分なので、作品の欠陥ではありません。
よくこれだけのトリックを(現実には絶対起こりえないことだが)破綻なくまとめあげたと感心させられました。
『硝子の塔の殺人』感想考察
コッテリなどと評価しましたが、文体はアッサリです。
スラスラ読めます。状況描写はそこそこにキャラクターを中心に描かれる文章は、ライトノベルに近いといってもよいでしょう。
そしてそのキャラクター達もみな個性的で、誰が誰か分からなくなるということは決してありません。このあたりもラノベですね。
斬新なのは、
プロローグでいきなり犯人がバラされる!
ということでした。
いや、そういうジャンルがあるのはテレビドラマでは知っていました。
(1本も見たことないけど)『古畑任三郎』や『相棒』の甲斐享最後の事件など。
しかし小説ではおそらく初めてです。そういうのは読みたくなかったので、ちょっと失敗したかと思いました。
犯人が分かっていてもそれなりに楽しめることは期待していたのですが…
本当にそのとおりになりました!
最初に読みたいと期待していた、いやそれ以上の内容でした。
ミステリーマニアの名探偵の語るウンチクもなかなか楽しめます。
今回のトリックの着想は、作中でも言及される「後期クイーン的問題」が元になったものと思われます。
後期クイーン的問題は2つありますが、ここではこちら
「作中で探偵が最終的に提示した解決が、本当に真の解決かどうか作中では証明できないこと」
つまり“推理小説の中”という閉じられた世界の内側では、どんなに緻密に論理を組み立てたとしても、探偵が唯一の真相を確定することはできない。
なぜなら、探偵に与えられた手がかりが完全に揃ったものである、あるいはその中に偽の手がかりが混ざっていないという保証ができない、
つまり、「探偵の知らない情報が存在する(かもしれない)ことを探偵は察知できない」からである。
いまひとつピンときませんけど。読者へ向けたクイズという側面もあるので、そのあたりが不明確なのはフェアではないということでしょうか。
『硝子の塔の殺人』続編はあるか?
不満点といえば、強いてあげればもうひとつ。
ラストが軟着陸なきらいがあります。
うーん…もう十分やりきったはずなのに、今後のエピソードの余地を残したのはどういう意図なのか。
きっぱり断ち切ったほうが、作品の完成度は上がったと思います。
それともやはり続編があるということなのでしょうか。
『硝子の塔の殺人』映画化はあるか?
館シリーズばかり読んでいたので、叙述トリックでないどんでん返しは新鮮でした。
館シリーズとは違い、本作は映像映えするシーンの連続です。うがった見方をすれば、映画化の企画前提の作品とも思えてきました。
「作家デビュー10年 実業之日本社創業125年 記念作品」
とのことです。
発表からまだ間が立っていないこともあり、映画化するとなれば水面下で現在進行中と思われます。
過去作の映画化の実績はどうなっているのでしょう。
ポシャっていたら映画にはならないかもしれないので調べてみました。
仮面病棟
2020年3月6日公開。監督は木村ひさし、主演は坂口健太郎
興行収入 7億1500万円
興収が7億ぽっち?
鬼滅の刃と比べてはいけないんだろうけど、いかにもショボい…
初週ランキングは2位だったとのことなので、そういうものだと思えば悪くはないのかな?
見栄えがするカットに不足はないとはいえ、映画にするのはなかなか難しそうです。
ワイダニット(動機)にいかに説得力を持たせるか…勢いで押し切るしかないですね。
事件の真相が明らかになってからも過去のあれやこれやに言及されるので、間延びしないようにするのも難題です。
映画化されたら見に行くつもりです。…コロナが終わっていれば、ですけど。
今は『屋上のテロリスト』を読んでいます。面白ければ、他の知念作品もどんどん読んでいきたいです。
最新作『真夜中のマリオネット』も面白そう。
でも綾辻行人の未読作も読みたいし…
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